国の介護休業制度や勤務先の両立支援制度を活用して家族の介護をし、介護環境を整えられる人がいる一方で、介護離職を選択する人もいます。遠距離や介護施設が見つからないなどの理由で余儀なく介護離職をする人や、これまでの感謝の気持ちから介護に専念する人など、さまざまな事情がありますが、忘れてはならないのが介護離職後のお金のこと。ここでは、介護離職後の金銭面でのリスクについて考えてみましょう。
介護離職後の経済的負担は?
令和3年度の厚生労働省の調査によると、介護離職後の自身の変化について「非常に負担が増した」「負担が増した」と回答した人は、精神面・肉体面・経済面とも60〜70%と高い比率となっています。仕事を辞めたことで時間に追われることも減り、家族の近くにいられて安心感も増す。解決に向かうはずだった介護離職後の現状がこのような結果になる理由は、病状や老化の進行が想定され、先の生活に対してのストレスや不安が大きいのではないかと推測されます。70%近くの多くの人が負担に感じている「経済的負担」について詳しく見ていきましょう。
出典:「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」令和3年度厚生労働省委託事業
収入が減少し、家計に影響が
介護離職をすると、まずは毎月の給与所得での定期収入がなくなります。条件を満たせば失業保険を受給できますが、退職前の給与の45〜80%程度で、受給期間にも限りがあります。
例えば共働き夫婦の場合、どちらかの収入が無くなることで家計が困窮し、住宅ローンや子どもの教育費などへの影響が想定されます。
また正社員として働いていた場合は、ボーナス分の収入が無くなります。ボーナスを毎月の赤字補填や家電の買い替え、旅行費用等にあてていた場合は、生活が苦しくなったと明確に感じるかもしれません。
将来的な収入まで減少
定期的な収入だけではなく、将来的な収入が減ることにも注意すべきです。いま退職することで、定年時に受け取れるはずだった退職金の額が減るだけでなく、将来的に受け取る年金額も減ってしまうのです。
つまり、介護離職によって生涯で受け取れる収入の総額が減ってしまうこともしっかりと理解しておくべきでしょう。
介護離職からの再就職は厳しい
介護が落ち着いたら再就職しようと思って、一旦離職する場合も注意が必要です。介護離職からの再就職が厳しいと言われるのは、以下の3点が理由として考えられます。
1.年齢
介護離職する人は40代以上の年齢層が多く、そこから数年後に再就職を希望する時には、自身の年齢がさらに上がり、企業とのマッチングが難しくなる。
2.離職期間
介護は何年で落ち着くか、先が見えないもの。長い人は10年近くも離職期間ができてしまい、採用する企業側にとって不安要素に。また、離職期間が長いと、再就職への不安や自信の喪失などメンタル面で消極的になってしまうことも。
3.介護を前提とした職探し
介護の緊急性が下がり、働く余裕ができてからの職探しの場合は、仕事と介護の両立が前提となりがちです。そのため、通勤・帰宅時間や勤務地等の条件を満たす求人は限られる傾向にあり、選択肢が狭まる。また、企業側にも介護への理解が求められる等、条件に合う職を探すのが難しい。
上記の理由もあり、たとえ再就職できたとしても離職前の雇用条件より下がってしまうことが想定されます。
介護離職を考えている場合は、まず勤務先に相談を
介護は一生続くわけではありません。「人生100年時代」といわれる今、介護が終わった後の自身の人生の方が長いということをしっかりと見据えて、介護離職後の家計やライフプランにしっかりとした道筋がつかなければ、安易に離職するべきではないのです。
まずは勤務先に相談し、仕事と介護の両立支援制度を上手く活用し、職場に理解を求めましょう。また、今は介護をしていない人も、自分の勤務先にどのような支援制度があるか確認しておくと良いでしょう。